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Japan Actors Union

俳優たちの団結が生むもの

約10分
俳優たちの団結が生むもの

日本俳優連合(日俳連・にっぱいれん)の代表理事・池水通洋による寄稿文「俳優たちの団結が生むもの」を紹介いたします。

※初出:特定非営利活動法人シアタープランニングネットワーク発行『THEATRE&POLICY』No.142

本稿は、日俳連の歴史の紹介から始まり、国際俳優連合(FIA)との関わり、SAG-AFTRAのストライキ、ストリーミングに対する報酬問題、俳優が直面する課題、日本における法的整備の遅れ、生成AIへの危惧、などの話題を多岐にわたって採り上げております。

4000字を超える文量の中に、日本の俳優にとって重要な内容が書かれております。是非ご一読ください。日俳連は、本稿に書かれた問題の解決を目指し、今後も活動を続けて参ります。


俳優たちの団結が生むもの

協同組合 日本俳優連合
池水 通洋

 協同組合 日本俳優連合(JAPAN ACTORS UNION = JAU)は、職業俳優2,500人ほどが個人の資格で加入している団体です。1963年、日本放送芸能家協会(徳川夢声理事長)としてスタートしました。1967年、協同組合日本俳優連合に改組。以後、理事長は佐々木孝丸 、森繁久彌、里見浩太朗各氏に受け継がれ、現在は西田敏行氏が理事長就任16年目となっています。略称を「ニッパイレン」といい、日俳連は、俳優の社会的・経済的地位の向上のため、協同組合と言う法人恪が持つ団体交渉権、団体協約締結権を活用、NHK、在京TV5社、在阪TV各社、在中京TV各社、一般社団法人日本音声製作者連盟と団体協約を交わし、俳優たちの活動環境と出演条件の改善に取り組んでいます。

 また、1970年代から国際俳優連合(The International Federation of Actors = FIA)の日本で唯一の会員団体となり、現在は理事国として、毎年どこかの国で行われる理事会に参加して、世界中の演劇・映画・放送・通信等に関する情報を獲得し、国内の関係団体、行政、国会議員、マスコミ等にも伝える役割を果しています。

 2023年も日俳連はシアタープランニングネットワークの中山夏織さんにコーディネートを依頼、組合員の岡田ナオさんと共に、トルコのイスタンブールで行われたFIA理事会に参加して貰っています。中山さんと日俳連のお付き合いは30年を超えています。

 本年は、アメリカの舞台俳優組合AEAとブロードウエイのプロデューサーとの交渉の難航か伝えられ、カナダの俳優団体ACTRAとCM製作者との協議が難航、日俳連は両団体に支援のメッセージを送っています。更に日俳連とはFIAの仲間としてお付き合いの長いアメリカの映画・TV・ラジオ出演者の組合SAG-AFTRAもストライキに入っていました。

 世界中の実演家は共通の問題を抱えています。映画やドラマの利用形態は、配信での利用が主流になってきていることがその1つです。欧米ではこれまでは、同じ作品が劇場で使われれば劇場使用料、放送で使われれば放送使用料、DVDになればビデオ化使用料、海外に販売されれば海外使用料のように用途に応じた使用料を実演家は受け取ることが可能だったのですが、ストリーミングからは制作時に受け取る配信の報酬しか入ってこないのです。ストリーミングでの利用に関しては利用期間に応じて報酬を徴収してゆくシステムを設定することが必要になるのです。

 但し、これは欧米の俳優の場合です。欧米では、このように映像作品の利用に応じた利用料を俳優は受け取ることが出来るようになっています。ところが日本では放送局が直接制作する番組以外の映像著作物、つまり映画に出演したら出演料のみで追加報酬は貰えないことになっています。放送局が、制作会社に委託して製作する番組も映画と見做されてしまいます。

 放送局は、「放送のための一時固定」と言う特権を与えられ。代わりに、放送作品を他の分野の用途に使う場合は実演家に相応の報酬を支払わなければならないと著作権法に定められているのですが、これが民放局によって完全に守られていない場合もあり、これまた日本における問題なのです。

 日本の著作権法は、1970年に作られ、映画の権利は制作者に集中し、俳優は出演時に限り出演条件を交渉することは可能ですが、仕事が得られるかどうかがかかっている出演交渉時に作品の利用に応じて報酬が欲しいなどと俳優が言ったら出演の機会そのものを得ることが出来なくなります。ですから俳優が得られるのは出演時の出演料のみで、以後、映画がどのように利用されても追加報酬はないのが普通のようになっています。

 世界知的所有権機関WIPOは、2012年、北京条約を新設し、視聴覚実演に関する俳優の権利を加盟国の国内法に規定することが出来る規範を設けているのですが、我が国は、2014年同条約を批准しながら、映画に関して70年前の著作権法の規定が未だに改正されていないのです。そもそも映画の主役である俳優に権利がないのはおかしいと俳優たちは70年前から主張しているのです。

 ただ例外があります。日俳連の声優たちは、1973年に芸能界初のデモ・ストライキを行い、1978年、外国映画日本語版、アニメーションの再放送料を獲得、その後も運動を続け、声の出演に関しては劇場、放送、ビデオ、機内、配信、と言った利用目的別に使用料を徴収することに成功しています。再放送料、転用料等は日俳連に集められ出演者に分配されるシステムが出来上がっています。日俳連の声優ルールの今後の目標は、各使用料をウインドウ処理ではなく期間に応じた報酬を1回きりでなく徴収できるようにすることですが、先ずは映画全般に関して出演者が欧米並みに利用の態様に応じて報酬を受け取ることが出来るよう、映画著作物に関して著作権法の改正を行って貰わなければなりません。2023年8月30日、日俳連は文化庁長官に、著作権法の映画の規定を改めるよう要望書を提出しました。

 話が逸れました。欧米では日本と違い視聴覚著作物の利用に応じた報酬が実演家に支払われる仕組みが出来ています。加えて、視聴覚著作物の利用の流れが配信に移行し、実演家はストリーミングからも利用の期間に応じた報酬が得られるようにしなければならない状況が生まれています。それは日本でも同じように言える重要な問題です。

 また、今回のSAG-AFTRAストライキの 課題として「生成AI問題」があります。アメリカの生成AI技術は日本よりかなり進んでおり、俳優の既存作品から得られたデジタルデータで作成された俳優のアバターに、生成AIが書いた脚本によって演技をさせるところまで進んでいるようです。日本でもある飲料メーカーが実に好感を持てる女性モデルをAIによって作り出し、実際に利用しています。俳優などのAIによる失職は既に始まっているのです。

 日俳連の組合員の多くは、外国映画や外国TV番組の日本語吹き替え版に出演しています。AI技術の活用によって声優の仕事が大きく変わろうとしています。日本語字幕は勿論、オリジナルキャストの声による日本語版作成が生成AIによって可能になるというのです。1950年代から始まった外国映画の日本語版吹替製作ですが、オリジナル作品に負けない品質の日本語版を作ってきた日本のアテレコ文化が危機に瀕しているのです。イタリア、フランス、スペイン等吹替が盛んな国々でもこのことは大きな問題になっています。

 日本政府は、生成AIに関して、というよりまだ生成AIが大きな話題になる前の平成30年に、新しい研究のために既存著作物を利用する際に妨げにならないよう、著作権法30条の4の制限規定を設け対応しています。

 政府はAIを、省力化、経済効率を上げるため、また、労働力不足を補うため利用すべきとしていますが、生成AIにより仕事を奪われ失職する人の数は今後計り知れないほど生まれると思われます。既存著作物から機械的にデータ学習したAIは、通常人の及ばない先端情報を蓄え、それにもとづいた判断を下すことが可能になります。理論構築を必要とする弁護士や公認会計士の職域をも侵す可能性があるという事です。欧米では、人の代替としてAIが使われることがあってはならないという人優先の考え方がされており、生成AIの実態を十分理解しないうちに作られた日本の著作権法の考え方は、欧米の考え方と大分乖離して来ているように思われます。

 SAG-AFTRAの合意事項の中では生成AIの学習素材は権利者の許諾を得たものだけを利用できるよう、インフォームドコンセントが整備されていますが、我が国の著作権法30条の4は、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、(既存著作物を)利用することができる。」となっております。コンピュータが、著作物の思想又は感情をどの程度享受できるのかは議論のあるところであり、条文を読んだ限りでは、既存著作物は機械学習によって全て利用することが出来ることになる恐れさえあります。アメリカではインフォームドコンセントが必要なものが、日本では自由に生成AIの学習素材に利用できることになりかねないのです。生成AIを適切に利用するためには国際的なルールが求められますので、日本と諸外国との生成AIに関する理解の懸隔はどうしても埋めなければなりません。

 アメリカのテレビ・映画・ラジオに出演する俳優たち16万人の労働組合SAG-AFTRAと映画・TVプロデューサーの団体AMPTPとの協約改訂協議は難航し、2023年7月14日にストライキに突入、11月9日まで118日間ストライキは続きました。

 11月10日、SAG-AFTRAの全国理事会は、ストライキ中の交渉の結果得られた暫定合意案を承認。次いで16万人の組合員の批准を求める段階に入り、12月5日合意に至りました。

 SAG-AFTRAが、このストライキで得た成果は、最低出演料の引き上げを含む10億ドルを超える新たな報酬、および福利厚生制度のための資金調達。これまで作品の利用に応じて得られていなかった報酬の獲得に加え、劇場そして放送での映像利用からストリーミングでの利用への移行に伴うパフォーマーに対する新しい報酬モデルの確立。さらに、この契約では、AIの使用に関する報酬の獲得とAIデータの利用に関する出演者のインフォームドコンセントを確立していることであるとSAG-AFTRAは取材に応えています。

 このSAG-AFTRAの成果は、世界の俳優たちにとって、素晴らしい目標となるものです。世界70か国の俳優たちは、国際俳優連合FIAに集い、個人の実演家が、製作者がもつ強大な力に対抗し、正当な社会的・経済的地位を確立するため、情報交換を行い、FIAがWIPO、ILO、UNESCO等国連機関の正規NGOである立場を生かして、国際著作権条約等の作成の議論に参画しているのです。

 2018年、日本俳優連合(日俳連)は、日本で唯一のFIA加盟団体として19か国からFIAの理事達を東京に招聘し、日俳連・FIA共催で「俳優の仕事と地位に関する国際間対話」というシンポジウムを開催しましたが、SAG-AFTRAの代表から、日本の俳優団体の現状に関して、「団結しろ!」「連帯だ!」「JAUは一人ではない。私たちがついている!」と言う、日本では前時代的とも思われる熱のこもったシュプレヒコールが発せられたのには驚かされました。今回のSAG-AFTRAのストライキはまさに団結・連帯の成果であると思われます。日本の俳優団体はバラバラで団結できていないのが問題であり、アメリカでは、労働組合が健全に活動していることをしみじみと感じました。

 アメリカだけでなくヨーロッパ各国でも、俳優たちは労組を結成し、制作者の団体と定期協議を行う社会システムが定着しているのです。2023年、日本の芸能分野には色々ありました。ジャニーズ、歌舞伎、宝塚の問題があり、低出演料、ハラスメント、搾取、移籍妨害ETC.は相変わらず存在します。実演家が結束して、この遅れている現実を変えていく声をあげようではありませんか。一人では何にもできません。しかし多くの実演家がまとまることで、SAG-AFTRAのように世の中を是正して行くことが出来るのです。俳優の皆さん日俳連に加入して下さい。関連団体のみなさん、連帯しましょう! 日俳連は、日本の現状を改めるため行政府等に働きかけて参ります。

参考:FIA・JAU共催シンポジウム『俳優の仕事と地位に関する国際間対話』