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【実演家向け】生成AIに関する緊急アンケート結果

約8分
【実演家向け】生成AIに関する緊急アンケート結果

協同組合日本俳優連合(以下、日俳連)は2023年8月、【実演家向け】生成AIに関する緊急アンケート(総回答数950件、2023年8月8日~27日)を実施いたしました。ご協力ありがとうございました。その集計結果をお伝えいたします。

概 要:

  • 実演家から950件の回答が集まり、生成AIに対する関心の高さと同時に、危機感や不安感が多く見られた。
  • 多くの実演家が、生成AIの学習元とされることへの忌避感を抱いており、生成AIには権利侵害の可能性があると認識していることがわかった。一方で、適正な報酬が得られるのであれば生成AIに使用されても良いという現実的な回答も半数を超えた。
  • 報酬次第とはいえ、実演家が生成AIに使用しても良いと考える分野は「単純な情報(時報など)」や「医療・福祉目的の作品」などに留まり、「映画・放送」「舞台・ライブ」「アニメ・吹替」などの表現分野での使用は望まないこともわかった。

今回の調査は、日俳連の組合員へメール及びハガキにて告知し、組合員からは652件の回答がありました。組合員以外の方へは、本ウェブサイトおよびX(旧Twitter)にて周知し、またマネ協(一般社団法人日本芸能マネージメント事業者協会)様のご協力もあり、組合員以外の方からも298件の回答を得ることができました。その結果、総回答数は950件となりました。

回答者の内訳としては、「声優」を主な仕事内容としている方が631件(66.4%)ともっとも多く、声の分野に従事する実演家からの関心の高さがうかがえました。

年代別では、30代(30.3%)を筆頭にして、40代(23.8%)50代(17.2%)の順番となり、働き盛りの年代からは生成AIに対する強い危機感があることを、本アンケートの自由記述などからも知ることができました。

設問「これまでに生成AIの素材となると分かっていて録画・収録をしたことがありますか?」の回答

この設問では、「ない」という回答が749件80%近くを占めており、まだ現実の仕事として大きく動き始めてはいないように思われます。一方で、「ある」という回答が116件あることからもわかるように、すでに生成AI技術を利用してリリースされている各種のサービスや商品が存在しているのも事実です。

他の設問の回答になりますが、「生成AIを身近に感じたことのある」の回答は約60%「生成AIについて危険を感じたことのある」の回答は70%以上という結果もあることから、生成AI自体の浸透が進んでいることを感じられます。

 

設問「生成AIに限らず、AI技術に対して、あなたの感覚に近いものを選んでください。(複数回答可)」の回答

「知らない内に自分がAIの元になっているのは心外だ」の回答が684件ともっとも多く、全体の72%の方が生成AIの学習利用に忌避感を持っていることがわかりました。続いて「生成AIは著作権の侵害に当たると思う」459件(48.3%)と多く、半数近くの実演家が生成AIの権利侵害の可能性を認識していることもわかりました。一方で、「まだどうなるかわからないので様子見をしている」と、今後を冷静に見極めようとしている姿勢も全体の約40%に上ります。

なお、「声優」のみの結果に絞ると、全体結果と1位は同じですが、2位と3位が入れ代わっており、「まだどうなるかわからないので様子見をしている」が僅差ではありますが優位に立っています。※下記の図は3位まで紹介

 

設問「あなたの顔・声・身体・芝居が生成AIに使用されることをどう思いますか?」の回答

「適正なギャラが入るなら問題ない(買取・都度交渉どちらでも可)」348件(36.6%)ともっとも多く、目を引きます。同様にギャラに関する回答の「収録とは別に使用される度にギャラが入るなら問題ない(都度交渉)」208件(21.9%)となっており、その他の「ギャラが入るなら問題ない」までを含めると、60%にあたる実演家が、ギャラ次第では生成AIの使用について前向きであることがわかりました。しかし、「絶対にやめて欲しい」「出来ればやめて欲しい」の実演家も36%に上り、決して無視できる数字ではありません。

 

設問「もし、あなたの顔・声・身体・芝居が生成AIに使われるとしたら、良いと思う使われ方は?(複数回答可)」の回答

「時報など単純な情報の伝達」678件(71.4%)「医療・福祉目的の作品・情報の伝達(視覚障碍者向けの書籍の音声化など)」509件(53.6%)、「ニュースなどの情報の伝達」344件(36.2%)の順番で、回答が多い結果となりました。一方で、実演家の本領を発揮する仕事(映画・放送やアニメ、外国映像の吹替など)の分野で生成AIを使われることを望む方は、少ない結果となっております。

 

設問「では、あなたが使われたくないと思うのは? (複数回答可)」の回答

この前とは反対になる本設問では、「映画・放送の映像・音声」「舞台・ライブの映像・音声」「アニメの音声」「外国映像の吹き替え音声」600件超で横に並び、続いて「ナレーション」「ゲームの映像・音声」500件超、3番目に「オーディオブックなどの朗読」などが400件超という結果になりました。「上記全て」も含めれば、やはり実演家の本領を発揮する仕事の分野においては生成AIを「使われたくない」という、実演家の強い思いが反映された結果と言えそうです。

 

設問「生成AIによる生成物であることを示す特定の表示(例:AI Voice)を明記するべきだと思いますか?」の回答

「はい」(明記すべき)と考える人が878件(92.4%)と圧倒的でした。生成AIの生成物については、海外でも明記すべき流れとなっているため、日本でも同様にして法的な縛りを設けるべきではないでしょうか。

 

設問「その他ご意見があれば、ご自由にご入力ください。」の回答

回答が任意による自由記述では、250件超のご意見・ご感想をいただきました。400文字以内という設定の中で、文字数を目一杯使用する方も多く、生成AI技術というものに対する実演家の強い思いを感じ取ることができました。一部ではありますが、抜粋してご紹介します。

懸念点は、聞いていただくお客様や制作されてる方々が、生身の役者でなくてもこのくらいのクオリティで良いという動きが出てきてしまう点です

結局は受け手側(消費者側)が 「生成AIで十分じゃないか・ むしろそっちの方がいい」 と思うようであれば、それはもうそちらの方向に流れていくのは仕方がない話なのかなと、正直思います

実演家という職業は、見聞きする方がいてこそ仕事が成立するという観点から、自分たちの実演を受け取ってくださる方への真摯な思いを述べる意見も散見されました。

 

演者の権利を守るために団結しなければ【一部の超有名俳優】以外は生活できなくなる未来が待っているのではないでしょうか?

生成AIも法整備が整わないまま自由に使用できるようになったらあらゆる表現者の卵は淘汰されていくと思います

実演家に限らずどの分野においても、広い裾野があってこそ類を見ない才能が生まれてくるものと思われます。そういった若い可能性を、生成AIの発展が摘むのではないかという危機感を表明する意見もありました。

 

すごく便利だと感じる一方、自分の表現や誰かの表現が、その人から離れて独り歩きする状態に疑問を覚えます。純粋な表現と同様に扱って欲しくはないし、決して同様ではないと感じています

自分が培った演技や技術を全く無視して、声だけ使われる、顔だけ使われることについては、どうかと思います。観客に本人が演じていると思われたら悲しい

実演家の表現というものは、その人の人生において積み重ねてきたものの反映に他なりません。日俳連は、実演家と実演家が生み出すものを守っていきたいと考えております。

 

まとめ

本アンケートを通して、実演家の生成AIに対する危機感が改めて浮き彫りになりました。一方で、実演家はその実演によって収入を得る職業従事者でもあるため、分野を限定すれば報酬(ギャラ)次第では生成AIを使用しても良いという態度も見ることができました。総じて、生成AIを商業分野で活用していくには業界全体でのルール作りが必要であると考えます。

今後、日俳連は「生成系AI技術の活用に関する提言」を基本姿勢としながら、本アンケートの結果を参考にしつつ、関係各社・関係団体・行政などに働きかけを行なっていく予定です。

自由記述の中に「団結」の文字があったように、今回お声を寄せて頂いた日俳連加入者/非加入者の方々のご協力も大いに必要になってくると考えます。「俳優」という生き方、またその権利を守っていくために引き続きのご助力をよろしくお願いいたします。

 

紹介した結果の全内容は、PDFファイルにてご確認いただけます。
資料:日本俳優連合【実演家向け】生成AIに関する緊急アンケートまとめ(PDF・199KB)
資料:日本俳優連合【実演家向け】生成AIに関する緊急アンケートQ15自由記述(PDF・353KB)

【調査概要】
・調査期間:2023年8月8日〜8月27日
・調査主体:協同組合日本俳優連合(日俳連)
・調査対象:実演家(日俳連組合員および組合員外)
・有効回答数:950件
・調査方法:日俳連公式ウェブサイト上でのオンライン調査