[日本俳優連合 事務局より]
日本のすべての実演家の皆さまへ
FIA 第23回世界大会共同提出動議 第7号
「人工知能(AI)の濫用的利用から実演家を保護するための決議」について
日本俳優連合(Japan Actors Union/日俳連)は、俳優・声優・ナレーターなど、あらゆる「実演家」の権利と生活を守るための団体です。
2025年11月、英国バーミンガムで開催された Fédération Internationale des Acteurs(国際俳優連盟 通称FIA)第23回世界会議において、日俳連は共同動議提出組織の一員として、「人工知能の濫用的利用から実演家を保護するための合同動議(第7号)」をFIAに提出し採択されました。
▶ オリジナル版) FIA 第23回世界大会決議 第7号 ≫
このページでは、日本で活動するすべての実演家の皆さまに向けて、この決議のポイントと、日俳連としての取り組み・今後の方針をわかりやすくご説明します。
1. 一言でいうと、この決議は何か?
≫ EQUITY(英国の俳優・声優・舞台芸術家、舞踏家、パフォーミングアーティストを代表する全国単一の実演家労働組合)、SAG-AFTRA(Screen Actors Guild‐American Federation of Television and Radio Artists/全米映画俳優組合・全米テレビラジオ芸術家連盟)、そして⽇本俳優連合の3団体で⼈⼯知能の濫⽤的利⽤から実演家を保護するための合同動議の提出。
AIによる無断利用や搾取から、世界中の実演家の「声・顔・演技」を守るために、
「インフォームド・コンセント」「透明性」「公正な対価」を国際ルールとして打ち立て、
各国のユニオンが連携して行動していくことを国際俳優連盟 (通称FIA)全体で宣言した決議です。
2. なぜ今、「AIと実演家の権利」が問題なのか
≫ 生成AIの学習において、実演家の声・映像・演技が、本人の知らないところで大量に収集・利用されている疑いが世界各地で指摘されています。その結果、本人に無断で「そっくりな声」「そっくりな顔」や演技をAIで再現することが容易になりつつあります。しかし、多くの国では、著作権法や個人情報保護法がこの急速な技術変化に追いついておらず、「おかしい」と感じても、現行ルールでは守りきれないケースが増えています。
こうした状況に対し、FIAは世界中の俳優・声優のユニオンが集まり、「このまま黙って見過ごさない。国際的な連帯でルールをつくる」と意思を示したのが、今回の決議です。
3.決議第7号の主なポイント
≫ (1)インフォームド・コンセントは「絶対条件」である
実演家の 肖像・声・演技・キャラクターが、
- AIモデルの学習に使われるとき(インプット)
- AIによって新たなコンテンツが生成されるとき(アウトプット)
のすべての段階で、事前の「インフォームド・コンセント(十分な情報に基づく同意)」が必要であると再確認しました。
有名・無名や声・顔の認知度に関わらず、"すべての実演家が同じレベルの保護を受けるべき"と明言しています。
(2)AI生成コンテンツであることの「明確な表示」
ローカライズ(吹替・字幕・多言語展開)を含む、あらゆるAI生成物について、
"「これはAIによる生成である」ことを視聴者に分かる形で明示することが不可欠" である、としています。
これは、
- 観客・視聴者との信頼関係
- クリエイティブ産業全体の透明性
を守るための "最低限の条件"だと位置付けられています。
(3)国際的に調整された連携対応
AI技術もエンターテインメント産業も国境を超えて動いているため、一国だけでは解決できない問題 が多数あります。
そこでFIAは、
- 産業界(スタジオ、配信プラットフォーム、制作会社等)
- 立法・行政機関
と連携しながら、"国際的な共通ルールづくり" を進めることを決議しました。
(4)団体交渉の中心的役割
「労使の団体交渉」が整備されている国では、
"AI利用のルールやライセンシング条件を定める際、団体交渉こそが最も望ましいモデルである" と確認しています。これは、個人任せの自己責任ではなく、「ユニオンとして交渉し、守る」ことを国際的な原則とするものです。
(5)国際条約とAI規制アーキテクチャ
FIAは、"AI時代の権利保護の土台として「国際条約」の役割が不可欠" であると強調しています。その上に、各国のAI規制・国内法制・業界ルールを積み上げるべきだ、という立場をとっています。
(6)ベストプラクティスの共有
各国で進んでいる、
- AI条項の導入
- デジタルレプリカのルール
- AIガイドライン
などの「良い事例」をFIA内で共有し、"世界の実演家コミュニティ全体の学習と連帯を強化" していきます。
4. 日本俳優連合としての取り組みと今後の方針
日本俳優連合は、この決議第7号の趣旨を日本国内で具体化するため、次のような取り組みを進めています。
1. AIと実演家の権利に関するガイドラインの整備
実演家の声・演技・肖像をAIに利用する際の、
- 同意取得の方法
- 契約条項(利用範囲・期間・対価など)
- 二次利用・追加利用の扱い
などを明確にした、実務で使える指針を整備します。
2. AI条項を含む契約モデルの提示・改善要請
吹替、アニメ、ゲーム、配信コンテンツなどの分野ごとに、"AI利用を前提とした契約モデル・条項例の提示" を検討し、
制作会社・スタジオ、その他ステークホルダー等との話し合い・改善要請を行います。
3. 官公庁・立法府との対話・提言
文化庁、経済産業省など関係省庁、国会議員等に対し、"AI時代にふさわしい法制度整備の必要性" を継続的に提起していきます。
4. 国際連帯の強化
FIAおよび各国ユニオン(SAG-AFTRA、Equity、ほか)との連携を通じ、"日本国内の状況を国際社会と共有しつつ、海外の先進事例を積極的に学び、日本へ還元" していきます。
5. 実演家のみなさんへお伝えしたいこと
1. 「自分には関係ない」と思わないでください。
知名度の高い俳優・声優だけでなく、"すべての実演家の声・顔・演技がAIの対象"になり得ます。
2. 契約や同意書の内容を、必ず確認してください。
「AI」「デジタル」「将来のあらゆる利用」などの文言が含まれている場合は、
どこまでの利用を想定しているのか、よく確認することが重要です。
不安な場合は、日俳連までご相談ください。
3. 不審なAI利用や無断利用を見つけたら、声を上げてください。
自分の声や演技に「似ている」「そのままだ」と感じるコンテンツを見つけた場合、
スクリーンショットやURLなどの記録を残し、日俳連に情報提供してください。
4. 一人で抱え込まないで下さい。「日俳連」が何かお役立てできるかもしれません。
AI問題は、"個人の交渉力だけでは太刀打ちできない" 規模に広がっています。
だからこそ、日本国内には"日俳連"という「ユニオン」が存在します。
一人で悩まず、どうぞ遠慮なくご相談ください。
6. よくあるご質問(FAQ)- 過去収録作品のAI利用
Q. すでに収録した作品が、あとからAIに使われることはありますか?
A. 契約内容や同意書の記載によります。
「将来のあらゆる利用」「AI等による生成利用を含む」などと書かれている場合、
AI学習やデジタル複製の利用が含まれている可能性があります。
内容が不明な場合は、日俳連にご相談ください。
7. よくあるご質問(FAQ)- ネットに公開したボイスサンプルや動画について
Q. SNSに投稿した自分のボイスサンプルや動画も、AIに勝手に使われる可能性はありますか?
A. 技術的には「公開されているものを自動で集めて学習させる」ことは可能です。
それを 合法とみなすかどうかは、各国の法制度の問題 であり、現在世界中で議論が続いています。
FIAの決議は、「本人のインフォームド・コンセントなしに行うべきではない」という立場を明確に示しています。
8. よくあるご質問(FAQ)- AI利用のオファーについて
Q. 自分の声をAI化する仕事のオファーが来た場合、どう考えればよいですか?
A. 「絶対にダメ」ということではありませんが、
- 利用範囲(どんな作品・どの国・どの期間)
- 二次利用・再利用の可否
- モデルの廃棄や利用停止の条件
- 対価(単発の買い切りではなく、長期的な利用に見合う条件か)
などを慎重に確認する必要があります。
可能であれば、事前に日俳連へご相談ください。
お問い合わせ・ご相談窓口
AI利用、デジタルレプリカ、契約条項などに関するご相談や、
不審なAI利用に関する情報提供は、下記よりお寄せください。
* 日本俳優連合(Japan Actors Union)事務局 postmaster[a]nippairen.com ([a]を@に差し替えて下さい)
* 受付対象:俳優、声優、ナレーター、ダンサー、パフォーマー、その他実演に関わる方
* ご相談内容:
- AI・デジタル関連の契約・同意書
- 無断利用・海賊版・不審なサービスの情報(現在膨大な数のご報告を戴いており、順次確認の作業を行っております。)
- FIA決議第7号の内容に関するお問い合わせ など
最後に
AI技術は、使い方次第で、実演家にとって 新しい表現や新しい仕事のチャンスを生み出す可能性も持っています。
しかし、その前提として、実演家の権利と人格を守るルールづくりが欠かせません。
今回のFIA第23回世界大会決議第7号は、
「世界の実演家が、AIの時代にも人間らしく働き、表現し続けるための国際的な約束」 です。
日本俳優連合は、この国際決議を土台としながら、
日本で活動するすべての実演家のみなさんと共に、声を上げ、ルールをつくり、未来を守っていきます。
日本俳優連合 事務局

